起業家教育としてのドリームマップの可能性

・「職業は選ぶもの」なのか?

大人が子どもに問いかける「○○ちゃんは、大きくなったら何になりたい?」という問いそのものに、「職業は選ぶもの」というニュアンスが含まれている。つまり、大人が無意識に日常的に子どもに「職業は選ぶもの」という職業観を植え付けている現状が透けて見える。

13歳のハローワーク公式サイトでは、「人気職業ランキング」が月ごとに更新されているが、今日現在(2013年4月1日~4月30日)のランキング一位は「公務員(一般行政職)」である。二位「薬剤師」、三位「保育士」と続き、百位までに「社長」は出てこない。
*13歳のハローワーク公式サイト

詳細については後に述べるが、将来の夢を台紙の上にビジュアル化して表現するのが、ドリームマップである。子どもたちが創るドリームマップはどれも微笑ましいものではあるが、ふと、「職業は選ぶものである」と小学校低学年ですら「思い込んでいる」ことに気がつく。

・起業家が尊敬される社会づくり

家族や親しい友人から「起業したい」と相談されたら、何と答えるだろう? 多くの大人は、「大変だよ」「本当にやるの?」「リスクがあるよ」など、ネガティブな反応をするのではないだろうか。確かに起業にはリスクがつきものだが、サラリーマンもノーリスクとは言えない昨今、考え方を改める時期が来ているのでは無いだろうか。

「雇用創出こそ企業の最大の社会貢献である。」とは、カリスマ経営者・永守重信氏(日本電産社長)の言葉であるが、社会全体として雇用創出する起業家を尊敬する意識を醸成することが必要だと思われる。

しかし、わが国の開業率は、1986年ごろから廃業率を下回っている。つまり、企業の数が毎年減っているという現状がある。このまま、廃業率が開業率を上回り続けると、徐々に国力が衰退していく。
*中小企業庁

また、新しい会社が増えないということは「昭和の時代」の価値観や仕事の仕方、働きかたがスタンダードであり続け、平成生まれの若者との間でミスマッチが起こり、離職率が益々高まるのは火を見るよりも明らかである。

・ドリームマップとは

ドリームマップとは直訳すると夢への地図。つまり、夢(目標)への達成地図のこと。将来の自分の姿をビジュアル化し、台紙の上に写真や文字で表す自己実現のための目標達成ツールである。ドリームマップにおける「夢」とは、「思わず、ワクワクすること!動き出したくなること」と定義している。

なぜなら、ドリームマップを通じて「自らの意思で人生を切り拓く力」を養いたい。と願うからだ。誰もが主体的かつ積極的な人生を送るためには、体の内側からわき上がってくる感情やエネルギーで「これをやりたい」「こうなりない」といった「強い思い」が行動の原動力になるからである。

・ドリームマップに込められた「2つのメッセージ」

1. 仕事は、夢をかなえる手段である!

夢をかなえ、目標を達成するためには行動を起こさなくてはならない。夢の実現、目標の達成に必要な行動を導き出すためには、(1)自分の”好き”をみつけ、(2)ワクワクする将来の自分をビジュアル化することで、自分の未来に希望をもつ。すると、(3)未来に向かって行動を起こす。このことを、ドリームマップでは「夢をかなえるワン・ツー・スリーの法則」と呼んでいる。

よって、毎日の“ 仕事”や“ 勉強”、スポーツや音楽などの“ 練習”は、「人生の“ 目的”すなわち“ 夢”をかなえるための手段」である。

2. 人は、仕事を通して社会と繋がる!

ドリームマップには4つの視点で夢を描く。「①自己(物質的)」な夢。「②自己(精神的)」な夢。さらに自己の充足のみならず、「③他者(への貢献)」や「④社会(の変化)」という視点で夢を描くことにより、他者や社会との関係における自己の価値や意義を強く意識し、社会性や公益性を導き出すためだ。

4つの視点で夢を描くことで、「仕事を通して社会と繋がる価値」と、「他者や社会に貢献することの尊さ」を伝えることができる。

・起業家教育としてのドリームマップ

ドリームマップは、2002年に誕生した。誕生のきっかけは、中小企業庁の補助事業として日本商工会議所及び各地商工会議所などで行われている「創業塾」だった。「創業塾」とは、創業や起業を考えている方を対象に、事業を開始するための心構えやビジネスプラン(事業計画)作成を「研修」というスタイルで提供するものである。

一般的な「創業塾」では、ビジネスプランシートに文字で事業プランを記入することが多い。しかし、そのやり方では「起業の楽しさ」を疑似体験することが難しい。『起業家は、「起業の楽しさ」や事業の可能性をイメージし、頭の中で「喜び」を疑似体験するからこそ、創業時の困難を乗り越えられる』と考え、「台紙の上にビジュアル化して事業プランを表現してみてはどうか?」という発想で、ドリームマップが誕生した。

こうして大人を対象とした事業プラン作成プログラムとして誕生し、好評を得た創業塾版のドリームマップは、各地に広がっていった。

・生徒・児童へのドリームマップ

生徒・児童への展開は、2002年~2004年(平成14年~16年)の三年間、経済産業省「起業家教育促進事業」の公募プログラムにドリームマップが採択されたことで、約1万人の児童・生徒が体験した。

以下、報告書の抜粋をもって起業家教育としてのドリームマップの有効性を示したい。

ここから引用====================
平成 18 年度 経済産業省 起業家教育促進事業
起業家教育促進事業の効果検証に関する調査 報告書~従来調査~より

経済産業省新規産業室では 「ベンチャー企業の創出及びニュービジネスの振興・発展による我が国経済の活性化、新規雇用の創出」 というミッションに基づき、ベンチャービジネスの創出及び振興・発展のためアントレプレナーが多数輩出されるような起業カルチャーの醸成、起業家人材の育成を図ることを目的とする「起業家教育促進事業」に取り組んできました。

(中略)

(3)ドリームマップ
「ドリームマップ」の受講生、参観者(教師)を対象に以下の調査を実施しました。
①受講生対象調査
◇ 調査対象 19 校、49 クラスの受講生
○小学校 16 校 33 クラス
○中学校 2 校 9 クラス
○高等学校 1 校 7 クラス
◇ 調査対象数 1,491 票
◇ 有効回答数 1,421 票
②参観教師対象調査
◇ 調査対象 19 校、49 クラスの参観者(教師)
◇ 調査対象数 51 票
◇ 有効回答数 51 票

【 ドリームマップ 受講生評価結果 】
◇ 評価上位5項目は次の通りでした。
「Q8.自分の夢を実現するプロセス」 90.9 点
「Q13.他のメンバーの夢を応援」 88.6 点
「Q5.自分のことを知ることの大切さ」 86.3 点
「Q2.ドリームマップ台紙の使いやすさ」 86.1 点
「Q6.物事には違う見方がある」 84.9 点

【 ドリームマップ 参観教師評価結果 】
◇ 評価上位2項目は次の通りでした。
「Q8.職業教育を実施する上で参考」 90.4 点
「Q2.生徒たちの創造性を伸ばす意味で参考」 87.1 点

(中略)

受講生の起業意識の醸成については、今年度実施した追加調査の分析結果から当事業プログラムの効果が示されています。経済産業省で推進されてきました「起業家教育促進事業」は、アントレプレナーシップを有した人材が輩出されるべく起業カルチャーの醸成と起業家人材の育成を目的としてきました。その観点から考えて、当事業で実施した各プログラムは総合的にみてその政策目的に合致しているといえます。
ここまで引用====================

・起業家教育としてのドリームマップの可能性

起業家教育ドリームマップには、児童・生徒が自分の将来の夢と向き合うことで社会への参加意識(当事者意識)を持ち、ただ単に「起業」ではなく、「理念の創造」につなげたい。というねらいがある。

とんがったところ(各個人の個性)を伸ばすことが、理念の創造につながり、新たな社会を生み出すと考えるからだ。企業にとって扱い易い人材を育てるのではなく、各個人が社会の中でキラキラ輝くことが会社を活性化させ、社会をよくするという考え方に基づく。

ある母親によると、「子どもの行動を扱いにくい」と感じた学校から、「子どもを特別支援学級に入るように勧められた」という。この母親は、この提案を受け入れなかった。「自分も同じように変わった子だったが、今はそれが仕事につながっている。多様性を受け入れる価値観が周りにあれば、子どもの個性は活かせる」と考えるからだ。ドリームマップでも、多様性は個性として尊重することを大切にしている。

別の母親は、「うちの子はプリキュアに憧れていた。そのために運動もがんばってきた。今は陸上部で活躍している」という。子どもが何を目指しても、何かに夢中になれることが素晴らしいし、そこから発展することに目を向けることを大切にし、目的のために行動(練習)をすることを習慣づけさせたい。それが、社会人として生きる力につながる。と、ドリームマップは考える。

企業では盛んに「コンピテンシー(結果を出せる行動特性)」が重要だという。この背景の一つは成果主義の導入である。企業に求められる人材は「成果につながる行動を自ら考えられる人」。ドリームマップの「夢をかなえる1・2・.3の法則」を子どものころから経験することで、起業家マインドが育まれ、それは結局のところ大人になったとき、企業での活躍にもつながり、社会全体の活性化につながる。

・起業家マインドは、世界平和に通じる

「2011年度にアメリカの小学校に入学した子どもたちの65%は、大学卒業時に今は存在していない職業に就くだろう」(米デューク大学 キャシー・デビッドソン氏 ニューヨークタイムズ紙 2011年8月)というデータがある。子どもたちをはじめとする現代人の未来社会の予測は不可能である。

ドリームマップの「夢をかなえる1・2・.3の法則」の考え方は、今までの延長線上にない未来(新しい仕事)をつくる可能性を示す。

なぜなら、ワクワクするドリームマップ経験は、例え自分の夢を否定するようなことを親や教師に言われたり、実現が難しいと思える局面を迎えても、「自分は、この夢をかなえたい!」と諦めきれず、現状を突破するパワーの源となるアンカーが心に打たれるからだ。

企業で高業績を上げたモデルでさえ、次の瞬間は通用しなくなる時代なら、常に自分の得意ややりたいことを知り、それを活かすことで社会の中で貢献できることを考えられる思考を持つことができれば、どこでも、どんな時代でも生き抜ける。

ドリームマップによって身につけられる生きる力、逞しさは、起業家のみならず社会のイノベーターとしての人材を育成することにもなり得る。

結局何をするにしても、「夢をかなえる1・2・.3の法則」に則り、自発的に考えることは必要であり、夢のチカラが各個人の中に眠っている潜在能力を引き出す。そのような人が増えるということは日本や世界の未来にとって無限の可能性を秘めるということだ。

『世界へ、未来へ、夢のチカラでWorld Peace』とは、ドリームマップの理念であるが、夢のチカラは、世界平和をも実現するパワーを持つと信じている。

・ドリームマップの課題と対策

ただし、知識としての考え方「夢をかなえる1・2・.3の法則」や「夢を4つの視点で描く」ことを実際に体現するにはトレーニングの場が必要である。その点は、ドリームマップを創る経験だけでは弱い。

また、ドリームマップを創った子どもたちが、日常的に行動を変えるには周辺の大人の変化も重要である。つまり、子どもたちを取り巻く環境の整備がとても大切である。

対策としては、「夢を描き、応援し、相互支援する社会づくり」や「対話を通じて、夢を明確にし、理念を創造する関係性づくり」が必要だと考えられる。

このことにおいて、「相手の目標達成をサポートするコミュニケーションスキル」と定義づけられるコーチングの有効性は言うまでも無い。社会全体のコミュニケーションにおいてコーチングの考えがベースになったとき、ドリームマップは自分の人生や家族との関係、社会との繋がりを考えるインフラとなる。

このような考えから、ICP(Independence Coach Program)自立・独立をサポートするコーチ・トレーニング・プログラム(通称:ドリマ先生養成講座)を2003年から実施している。元々は株式会社エ・ム・ズの社会貢献事業であったが、その拡がりから、2011年には独立した一般社団法人の事業として行うようになった。20時間のベーシックコースを受講すると、ドリマ先生として認定を受け、世界中どこでも相手の年代を問わずドリームマップのワークショップを開くことができる。

2013年春にICPドリマ先生養成講座は10周年を迎え、卒業生は500名を超えた。全国各地に点在する「ドリマ先生」が、地域毎に支部を設立し、小学校や中学校という公教育の現場や、企業においてはワーク・ライフバランス研修、キャリアデザイン研修などを展開している。

近年では、教師が自らのクラスでドリームマップ授業をするために、専用の6時間のトレーニングを受けてもらって「夢先生」として認定したり、そのほか、特別支援学級への展開、海外の日本人学校への展開など、様々な試みが始まっている。

・これからのドリームマップ

どんな時代に生まれ、どんな環境で育ち、どんな個性を持ち、どんな生き方を選び、どんな社会的立場にいようとも、みんな平等に、夢を描くことができるはず。

現実や未来、そして同じように夢を描く自分以外の人々に配慮をしながら自らが主体的に行動を起こすことは私たち一人ひとりが存在し、生きていくことの意義であり、未来への希望や、次世代の子どもたちへ笑顔のバトンをつなぐことは私たち大人の責任であると思う。

一般社団法人ドリームマップ普及協会の経営理念は、「世界へ、未来へ、夢のチカラでWorld Peace!」。ドリームマップを通じて生まれた夢のチカラで子どもも大人も元気になり、世界が平和になることが私たちの夢。

ドリームマップの理念に共感・賛同し、「みんなの夢や目標を応援しあえる世の中を作りたい」と考える、個人や企業、学校、病院、各種団体、地方自治体など、様々な分野の方々と連携し、ドリームマップを使った研修やワークショップの開催、調査研究、普及啓発活動をしていきたいと思う。